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サイコロジストとは

サイコロジスト(Psychologist)とは「心理学者」のことではありません

心の専門家、「サイコロジスト」という職業をご紹介したいと思います。日本では馴染みの薄い職業ですが、アメリカでは一般的に心の悩み、心の病気を扱う専門家のことをいいます。この国でサイコロジストとして患者さんを診るには、日本でいう国家資格が必要です。この免許を取得するのは結構大変で、大学で心理学部または関連学部を卒業した後、大学院に進み博士号まで取ることが条件となっています。その間インターンなど各種の実習経験をつんで、卒業後にも更に一年間の臨床経験を経て、ようやく資格試験を受ける権利を手に入れます。ここまでで大学卒業後7年近くの年月を費やすことになります。

各州が定める資格試験に合格すると、晴れてサイコロジストになります。アメリカはこの分野に大変重きを置いており、ゆえにサイコロジストになるためのハードルを大変高く設定しています。学校や企業が契約しているサイコロジストや、様々な悩みに個別に対応できるような専門分野を持つサイコロジストが存在します。

アメリカよりも自殺者が圧倒的に多く、心の悩みやストレスなどに苦しんでいるひとがより沢山いると言われている日本が、この分野でアメリカよりも遥かに立ち遅れているという実態は理解に苦しみます(日本で心理療法を行う公認心理師は国家資格として認可されていますが、健康保険の適用にはまだまだ色々な制約があるようです。トレーニング内容も、それに要する時間も米国のサイコロジストほど厳しくはありません)。こういった制度面の遅れが日本で心理セラピーや心理アセスメントを馴染みの薄いものにしている原因なのかもしれません。

一般的にサイコロジストの仕事内容は大きく二つに分かれます。心理セラピーと心理査定(アセスメント)です。アメリカではこれらは医療行為としてみなされており、ゆえに健康保険の利用も可能です。これらの業務内容をもう少し詳しくご説明したいと思います。

心理セラピーとは

心理セラピーは、「問題を抱え生き辛さを感じている人の認知と行動に働きかけ、そこに望ましい変容をもたらすことを目指します」*。ちょっと難しい表現ですが、つまり患者さんの心の悩み、心の病気に応じて、様々な科学的研究に基づいた治療方法を用いて患者さんの心理援助にあたる、サイコロジストのもっとも中核的な治療行為です。セラピストは患者さんが自らの物事の考え方、捉え方や行動を分析してより深く理解することを支援し、それに「自ら対処」できるようサポートします。心理セラピーはセラピストと患者さんの1対1形式で行われるのが一般的ですが、治療内容によってはカップル、家族、また同じ悩みを抱える人々があつまるグループ形式をとることもあります。

対象となる問題は多岐にわたっており、例えば:

  •  うつ病
  •  不安症
  •  出社・登校拒否
  •  対人恐怖症
  •  様々な要因によるPTSD(心的外傷後ストレス障害)
  •  パニック障害
  •  自殺願望
  •  性格のお悩み
  •  人間関係のお悩み
  •  子育てのお悩み
  •  夫婦関係に関するお悩み
  •  その他様々なお悩み

サイコロジストは厳しい守秘義務を遵守しており、その為の規定の契約を結んだ上で各種治療行為を行いますので、相談内容が外に漏れることはありません。日本ではいまだに上記のような問題に対する社会偏見がありますが、日本の現状にかんがみるに、急速に変わっていかねばならないと強く感じています。アメリカでは皆さん気軽にサイコロジストや精神科医を訪れており、それが問題を未然に防いでいると言っても過言ではありません。

心理査定(アセスメント)とは

「心理アセスメントとは種々の心理検査や心理・観察面接を通じて、個人の独自性や個別性の特徴や問題点の所在を明らかにする試みであり、そこで得られた所見は時には他の専門家ととも検討を行い、より望ましい援助の方法を探る材料とします」* 。これもまた難しい表現ですが、要するに心理査定は通常の面接では中々得られない潜在情報を各種テストによりできる限り収集し、診断とその後の治療に役立てます。アセスメントの対象は一般的に以下のような分野ですが、そのほかの問題であってもお気軽にご相談下さい。よい治療方法が見つかるかも知れません。

  • 性格
  • 知能
  • 大脳機能
  • 心理機能
  • 職業適性
  • 精神障害
  • 注意欠陥多動障害(ADHD)
  • 記憶、学習障害(LD)
  • 心理発達障害、など。

サイコロジストの活動場所

スサイコロジスは専門性の高い職業でありながら、社会の様々な分野に浸透しています。例えば学校の相談室、病院、診療所、拘置所、少年院、刑務所、ナーシングホーム、企業など活動場所は多岐にわたります。

サイコロジストと精神科医(Psychiatrist, サイカイアトリスト)

サイコロジストは精神科医とよく混同されます。この二つの職業の大きな違いは学位と心の病気へのアプローチの仕方にあります。上記のようにサイコロジストは博士号(Ph.D. かPsy.D.)を取得するのが条件ですが、精神科医は医師の資格(M.D., D.O.)が必要です。精神科医は一般的に心の病気に薬を用いて治療にあたりますが、サイコロジストは心理セラピーでアプローチします。症状の程度にもよりますが、セラピーと薬を両方合わせた治療法がより効果的だと現在では考えられています。サイコロジストと精神科医は時に同じ病院や診療所に所属しお互い協力して治療にあたることもあります。

*参考文献:日本臨床心理士資格認定協会ウェブサイト
表西 恵 Ph.D.(カウンセリング心理学博士;おもにしめぐみ)

表西恵先生が本を出版しました。

アメリカよりも、家庭や職場で心の悩みやストレスに苦しんでいる人がたくさんおり、自殺者も多いとされる日本。そんな日本でなぜ「心の病」はタブー視されるのか? アメリカで患者の心理援助にあたる“サイコロジスト”が、

<1>日米の「心の病」への向き合い方の差異
<2>日本における社会偏見
<3>アメリカの革新的な心理アセスメント
<4>「心の病」のシグナルの見抜き方や、シグナルが出た時はどうするべきか?

……など、対処法から問題を未然に防ぐ実践法まで、幅広く綴ります。

さらには、うつ病、不安症、出社・登校拒否、対人恐怖症、PTSD、パニック障害、自殺願望、飛行機恐怖症、人間関係の悩み、子育ての悩み、自身の性格の悩みまで、心の悩みや心の病気に応じて、さまざまな科学的研究に基づいた治療法も提案します。

 

その他の出版物:

表西恵先生はこの中の『特集 I.各国の精神科医療事情: 米国の精神科医療事情-アメリカ社会におけるサイコロジスト』を担当、執筆しました。